医療危機

2008年10月31日 時事ニュース
この話題ももう何回目になるのか。今回は経営側の視点から。

これまでや前回この問題をとりあげた日記では、1982年からの医師過剰の答申からずっと増員を抑制されてきたことが医療崩壊の一因ということを訴えてきました。

医者や看護師の数が少なくなった要因には、それだけではなく、過酷な医療現場での勤務実態や低報酬の実態、医療ミスなどの問題などもあるでしょう。

厚労省による医療改正、研修医制度や看護士定員の見直しなどもまた大きな要因であることは確かです。

この改正により、ただでさえ少ない人材のパイを多くの医療機関で取り合う売り手市場となって人件費が嵩むようになったというのが経営側の最大の悩みではないでしょうか。

さらには介護機能を入れた民間病院では、介護要員の確保にも人件費がかかり、介護報酬の見直しによってさらに圧迫されている実態があるとの話も伺いました。

経営側からすると急速に人件費が膨らんだこと、これが第一の要因と考えられます。それに加え下の記事にもありますとおり、丁寧な診療を求められることによって効率性が出せなくなったなどの要員もあると思います。

診療報酬の改訂が今年度ありましたが、下記にもありますが、利益につながっていないとのこと。

実はこの10月から診療報酬の改訂では、特殊疾患療養病棟入院料(包括払い)と障害者施設等入院基本料(出来高払い、現行は看護10対1~15対1)から脳梗塞、脳出血の後遺症および認知症患者を対象から外されました。(医療事務のための平成20年度の診療報酬改定の概要と解説 http://20.iryoujimu1.com/h20-27.html

ちょっとわかりづらいのですが、聞いた話ですと脳梗塞などは「重度の意識障害」がなければ一般病棟での入院の継続はできなくなったとのことです。脳梗塞で動けない人でも意識があれば点数がつかないため、これらの患者さんは一般病棟には入院させて置けないということで、療養型の病床に移さなければなりません。

「障害者施設等入院基本料は療養病床のいわゆる代替として届出を行う病院が多くなってきました。
 実際に同入院料の届け出は03年26579床→04年32299床→05年36165床→06年44693床→07年55702床(データは厚労省)と明らかな増加傾向にありました。
 これを本来の両入院料創設目的である筋ジストロフィー、脳性麻痺、神経難病などの患者へ限定して脳梗塞、脳出血後遺症の患者さんが多い病棟は療養型へ転換をうながすのが厚労省の考えです。
 したがって、これらの病棟は医療区分2,3中心の医療療養型へ転換するか。あるいは、他病棟への届出という選択を迫られます。」
と前述のHPで解説されています。

 ちょっとわかりづらいのですが、簡単にいうと医療収益は、一般>療養>介護の順で病床(ベッド)あたりの利益が異なります。一般病床に入院させておくと高くつくので、療養病床に移して安く入院させてください、というのが厚労省の考え方というわけです。

 しかし経営の側からすると、単純に「基準が変わりましたので療養病床に変更します」というわけにはいきません。実際に受け入れている患者がいるわけですし、利益の低い病床を増やせば、当然経営にも影響が出てきます。また療養病床の数も限られていて許可申請もしなければならないのですから、「変更します、はい、いいですよ」というわけにはいかないのです。

 また患者の側からすると「10月1日になりました、今日からあなたは療養病床でないと入院していられません、出て行ってください」「はいわかりました」とは、いかないわけですね。脳梗塞のような障害の度合いが重くても「意識の障害がなければ、入院させて置けない」といわれても受け入れる病院も病床もないし、医療行為も必要だし、家庭で介護しろといわれても対応できる家族がいない。

 脳梗塞で倒れたのが一家の大黒柱で、介護保険の適用もない年齢ですと、もうどうしていいのかわからない。こんなケースもあるんです。

 実はこの10月になってから、公立病院から転院を余儀なくされた脳梗塞患者の家族の方から相談を受けたことがありまして、また以前にも脳梗塞患者で手術で一命はとりとめたものの介護の保険適用がないといった家族から相談を受けています。なので、いろいろと調べてまして話も伺っていますが、いい方法がなかなかみつかりません。

 できればこの問題は約9ヶ月ぶりに許される次の県議会本会議一般質問でとりあげたいと思っています。

 公立病院の問題についても、銚子市立病院の問題だけではなく、総務省の「公立病院改革ガイドライン」で全国的に存続が厳しい環境が続いています。夕張市の財政破綻により財政再建を自治体に徹底的に求めるあまり、公の担う最低ラインの医療保障が否定されていることは税金の使い道としてはナンセンスなのではないかと思います。この点については前回の質問の時に指摘をしています。

 さて、今回は民間医療機関の収支状況が悪化していることが報道されています。医療収益が人件費によって圧迫されている実態については先ほど触れたとおりですが、今後、民間病院の破綻や縮小が相次ぐような事態が懸念されます。

 この金融危機で銀行側も一層、病院経営の収支、財務体質などを厳しく観ることが予測されるからです。病院だから融資を簡単にする、という甘い経営をしていれば金融機関も自らが破綻をきたす恐れがあるのですから。

 今後の医療は、的確に改善をしていかないと介護と併せて相当国民生活に影を落とすことになると思います。こどもに借金を残さないという考え方は立派です。でもこどもが自分の子を育てるときに必要な医療サービスを受けられる、こどもが自分の親の介護をするときに必要なサービスがある、という社会環境をのこしていくのも私たちの役目だと思うのです。

 医療には、介護には、もう少し手厚く出費をしておく必要があるのではないでしょうか。

【引用】民間病院の経営悪化、32%が赤字 人件費圧迫 都内は過半数
10月31日8時1分配信 産経新聞
 民間病院の経営状態が悪化していることが、全日本病院協会が30日まとめた「平成20年度病院経営調査報告」で明らかになった。調査対象となった32%の病院が赤字経営で、19年度の24%に比べて大幅の悪化。とりわけ東京は54%(前年度42%)と赤字率が高かった。

 病床規模別にみると、「20~199床」の病院の経営が比較的安定しているものの、「200床以上」の大規模病院で経営状態が悪いところが目立った。病床種別では、一般病床のみの病院で赤字経営が目立った。

 協会では「診療内容や方針を1人の患者にていねいに説明する必要などから、診察できる患者数が落ちて収入が減っている。その一方で、必要なスタッフ確保のため人件費が増加したことなどによる支出増が経営悪化の要因。都市部や大規模病院ほどその傾向が強くみられる」と危機感を強めている。

 20年度は診療報酬改定があり、これまで開業医に向けられてきた財源の一部が勤務医の待遇改善に振り向けられた。しかし、協会では「産科、小児科などに重点的に配分されたため、病院全体の経営改善にはつながっていない」とみている。

 調査は全国288病院の今年5月の経営状況をまとめた。国公立病院など、地域の基幹病院は含まれていない。

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